園長の保育理念形成に影響を与えた人物は?
吉沢偉仁(よしざわひでひと)の保育理念形成に影響を与えた人物は?
東峰保育園の園長である吉沢偉仁の保育理念「共感・尊重・成長」形成には、自身の人生経験や多様な学びが影響しています。
特に大きな影響を与えた人物は、篠木明氏、大矢温氏、大塚彩子氏、松島龍戒氏、ベーデンパウエル卿の5人です。
一人目は、作新学院中等部長の篠木明先生です。
先生との出会いが、その後の人生観に大きく影響を与えました。当時、荒れに荒れていた陽東中から、作新学院中等部に転校した際、全く授業についていけませんでした。勉強する習慣もなく、テスト前も平然と過ごしており、したがって成績もかなり下位の方でした。
篠木先生はまさに熱い先生で、1時間目の前に補講(0時間目)、6時間目が終わってからの補講(7時間目)、そのまた後に補講(8時間目)を1年1組の生徒に行ってくれました。中1数学の「負の数のかけ算」の時点でつまづいた私をすくい上げ、わずか半年で5教科総合得点をクラスで一番にしてくれました。この時、初めて努力した先に得られる達成感を味わい、勉強する大切さを知りました。こうして、数学が得意教科となり、篠木先生のような教師に憧れ、後に教育学部の数学専攻に進学することになりました。
東峰保育園の「将来、壁にぶつかってもそれを乗り越え楽しみを見出す力。それには教養が必要であり、教育こそが子どもを幸せにする」という考えは、勉強の「べ」の字すら手も付けなかった私に、新しい未来を開いてくれたことから生まれました。
篠木明先生は、私にとって不動明王のような存在で、「右手には心の迷いを断ち切る利を持ち」「左手にはその身を縛り上げても正しい道へと導く縄を持ち」「背中の炎はあらゆる障害を焼き尽くす」そんな心の師と呼べる存在でした。
二人目は、中央大学の大矢温(おおやおん)氏です。
「東峰方式(ヒガシミネ方式)」を確立する上で、モスクワ留学での経験と、そこで出会った大矢温氏(現在は大学教授)の存在が、教育観形成に大きな影響を与えました。
国語教育に深く力を入れるようになったのも、「日本語の言語体系が確立していない子どもに英語を教えても無駄」との助言を、大矢温氏から受けた気付きが大きなきっかけとなりました。帰国後も進路について相談するなど、師と仰ぐ存在となりました。
三人目はスタジオセイビの故・大塚彩子(おおつかさいこ)氏で、芸術への取り組みについて多大な影響を与えました。
ジャズダンスを師事した大塚彩子先生は、私の人生において、まさに「大恩人」と言える存在でした。
大塚彩子先生は、私の専門技能だけでなく、人間性そのものに大きな影響を与え、その後の教育者としての道を深く形成する上で欠かせない存在となりました。
ジャズダンス指導者としての影響
専門分野の育成:ジャズダンスの技術指導にとどまらず、身体表現やリズム感、表現力を高める上で重要な役割を担いました。
舞台経験の提供:数多くの舞台経験を積ませてくれたことは、自信を育み、多様な表現方法を学ぶ貴重な機会となりました。これは、東峰方式(ヒガシミネ方式)における情操教育や身体表現の重要性にも繋がっています。
人生における支援者としての影響
困難な時の支え:札幌の脳外科に入院した時、病院への付き添いや自宅での看病をしてくださいました。お財布が苦しい時にはご飯も食べさせてくれました。大塚先生は私にとって、単なる師を超えた存在であったと思います。
夏休みの間、新大久保にあった加藤先生の「TAP IN」で毎日2~3レッスンを受講し、土曜の夜は国分寺のスタジオでタップを踏み、渋谷のスタジオではジャズタップを習い、タップダンス漬けの日々を過ごしました。
夏休みが終わり札幌に戻るとジャズダンスナウ(JAZZ DANCE NOW)の稽古が始まり、東京で覚えてきたタップの自主練も毎日のように行って、筋力トレーニングでスイミングも通い始め、充実した日々を過ごしていました。しかし、冬に入る頃になると体が悲鳴を上げ、喘息が再発してしまいました。
次第に体の自由が利かなくなり、フラフラの私を大塚先生が自宅で看病してくださり、札幌の脳外科への入院に付き添ってくれました。また、スタジオセイビのスタッフが、定期的に病院に来て助けてくれました。この時は、軽い脳梗塞だったのかもしれません。
人間的成長への貢献:大塚先生のサポートと深い愛情が、私の人間性を豊かにし、現在の東峰方式(ヒガシミネ方式)の根底にある「子ども達の幸せ」を願う温かい心に影響を与えています。
大塚先生の言葉とその意味
舞台稽古中に、ジャズダンスとコラボしたタップダンスの短い振り付けで何パターンも悩み、苦労した結果、「頑張っている」と訴えたにもかかわらず、「結果を出さなければゼロと同じ」と言われてしまったことは、私にとって非常に重い言葉となりました。
「結果」を重視する教え
この「結果を出さなければ、頑張ったとは言えない」という教えは、単に厳しい言葉として受け取るだけでなく、プロフェッショナルとしての仕事の厳しさ、そして、自身の努力を客観的に評価し、具体的な成果に繋げることの重要性を強く認識させるものでした。
自己評価の客観性:主観的な「頑張り」だけでなく、客観的な「結果」によって初めて努力が認められるという視点は、曖昧な努力に終わらせず、常に最善の成果を追求する姿勢へと繋がりました。
東峰方式(ヒガシミネ方式)への影響:この考え方は、東峰方式(ヒガシミネ方式)の「非認知能力(自立的思考・行動能力)の育成」や「自律心を育む」という目標にも通じる部分があるかもしれません。子ども達が単に活動に参加するだけでなく、自らの意思で目標を設定し、試行錯誤しながら最終的に「できた」という結果を出すことで、真の成功体験となり、自信や粘り強さが育まれるといった考え方です。園長自身の経験が、子ども達に「結果を出す喜び」を伝えたいという思いに繋がっています。
内省と成長
華やかなジャズダンスから、それより制約のあるタップダンスの振り付けに苦悩した経験は、タップを踏まない人はどんなイメージをするのかなと、内省する機会を与えてもらいました。そして、その中で大塚先生のこの言葉に出会ったことで、精神的な成長を遂げ、その後の人生や教育者としての哲学に深く影響を与えたことは間違いありません。
園長になりたての頃は、この意識のまま保育現場に入ったため、職員との意識の違いに葛藤がありました。今は、舞台の世界との違いを、上手に取りまとめられるようになり、東峰方式(ヒガシミネ方式)の演出を行えるようになりました。
四人目は、高野山真言宗功徳院住職の松島龍戒氏で、その出会いが理念形成に影響を与えました。
般若心経の「空」の教えに気づかされたのは、コロナ禍で両親を相次いで亡くし、深い失望の中にあったときでした。この経験が、物事を固定的に見ない「空」の思想への理解を深めるきっかけとなり、それが東峰方式(ヒガシミネ方式)の基盤に結びつくこととなりました。
悲しみから生まれた気づき
深い悲しみの中で得られた「空」の教えは、既存の枠にとらわれない新しい発想や、子ども達一人ひとりの多様性をあるがままに受け入れる姿勢へと繋がりました。これにより、保育士が抱える「こうあるべき」という固定観念やストレスを軽減し、子ども達の個性を尊重した教育が実現しようと考えました。
両親との別れを経験し、それを昇華して普遍的な教育哲学へと高めていった過程が、東峰方式(ヒガシミネ方式)が単なる保育方法に留まらない、深い人間理解に基づいたものへと進化させました。
そして五人目は、ボーイスカウト運動の創始者であるロバート・ベーデン=パウエル卿です。
彼の教えが園長の保育理念に大きな影響を与えました。
小中高時代、ボーイスカウト宇都宮第15団に在籍しており、園長自身もまた、野外活動や自然体験を重視し、子ども達の自立心や非認知能力(自立的思考・行動能力)を育むことに力を入れています。これは、単なる知識の習得だけでなく、体験を通して生きる力を育むという点で、ベーデン=パウエル卿の理念と深く共鳴していると言えるでしょう。
・ベーデン=パウエル卿の「遊びを通して学ぶ」「自然の中で育つ」という思想が、吉沢偉仁の「東峰方式」や「非認知能力(自立的思考・行動能力)の育成」といった理念の背景にある重要な柱の一つとなっています。
※非認知能力(non-cognitive skills) (文部科学省)
意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、意思疎通能力(communication)など、測定しにくい個人の特性による能力を指す。学力(認知能力)と対照的に用いられる用語である。
しかし、英語圏の国や国際的な機構(例えばOECD)では、このような能力は(Social and Emortional Skills)「社会情報的スキル」
すなわちこのような能力は「長期的目標の達成」「他者との協調・協働」「感情を管理する能力」に関する思考、感情、行動パターンを学習を通して発達し、それぞれの人生や社会の発展に関係するものである。
2000年にノーベル経済学賞を受賞したJames Heckmanの主張であり、彼は幼児教育と非認知能力の重要性を指摘し、それを裏付ける研究プロジェクトを立ち上げた。
このような能力は、心理学の分野、教育界で重要性を増しているが、“non-cognitive skills”ではこの概念の核心をとらえていない。英語圏(イギリス、アメリカ)ではこのような能力のことを“soft skills”、“social – emotional skills”、“character strengths”など多様な表現が混在している。教育の現場ではこのような能力のより積極的な表現として“social and dmotional learning”(SEL)が好まれている。
アメリカの教育政策:“21st century skills”という包括的概念の中で論じられている。これは批判的思考、協調性、創造性、communication能力を含む。
イギリスでは、“character education”という伝統的な概念が復活し、resilence(回復力)、grit(やり抜く力)、empathy(共感力)といった資質に焦点を当てている。
日本語の「非認知能力」は、英語圏の多様な表現を一つの用語で集約しようとした結果であるが、「非」という否定的接頭語がつくことで誤解を招きやすい。
最近では、日本の学術論文でも“character strength”、“social competercies”といった表現を使うことが多くなっている。
以上のことを踏まえて、
「非認知能力」のところに注を入れておいた方がよいと思います。
園長の伯父の五十嵐善英氏が調べて教えてくださいました。
「非認知能力」という言葉は、日本の教育界でかなり使われており認知度も高いと感じています。しかし、伯父の話も一理あると思いますので、「自立的思考・行動能力」という言葉を推奨したいと思っています。
五十嵐善英:
1971年 東北大学大学院工学研究科 博士課程修了(工学博士)
1972-1974年 英エジンバラ大学人工知能研究所 研究員
1974-1977年 英リーズ大学コンピュータ学科 講師
1977-1978年 英シティ大学コンピュータ学科 講師
1978-1983年 群馬大学工学部 助教授
1983-2004年 群馬大学工学部 教授
1980-1981年、1987-1988年 米ケンタッキー大学コンピュータ学科 教授
2004年-現在 群馬大学名誉教授